子供の矯正治療


「矯正治療は何歳から始めたらいいですか?」という質問をよく受けます。

矯正治療の開始時期は、歯牙年齢(暦年齢とは関係のない、口の中の成長段階を表す年齢のこと)や不正咬合の状態によって一人ひとりに合ったタイミングがあるため、開始時期を何歳からと断定するのは、とても難しいことです。
子供は乳歯が永久歯に変わっていき、その過程でアゴも成長しているため、子供の矯正治療はそれらの成長に合わせて歯とアゴを正しい方向に誘導していくことを理念として行います。よって口腔内の成長期が異なる子供に対して一律的に治療開始時期を断定するのは難しいのです。

矯正の専門用語では、口腔内が成長期中にある子供を治療することを「早期治療」や「前期治療」と言います。一方、口腔内の成長期が終わった子供若しくは大人を治療することを「本格治療」や「後期治療」と言います。

最近、私が矯正医として開業するにあたり、子供の矯正治療として改めて肝に命じていること、それは、「急いで固定式の装置=マルチブラケット法(ブラケット、バンド、ワイヤー)を装着しないこと」=「急いで本格治療・後期治療を開始しないこと」であり、「前歯のみの歯並びの状態に捉われず、口腔内の将来的な成長の予測をし、早期治療・前期治療を開始すること」です。


もちろん、成長期中においても部分的に早くブラケットを装着したほうが良いケースもあります。また、既に親知らず以外の永久歯が生え揃い、歯磨きが上手に出来る方ならすぐに接着固定式の装置を装着して問題ないでしょう。相談当初の保護者の方の中には早く矯正器具を装着し、目に見えている歯並びをキレイにすることを希望する方もいらっしゃいます。

ただし、口腔内が下記に挙げるような状態の場合、本格治療・後期治療の開始時期については、よく検討する必要があります。

(1) まだ乳歯が数本残っている

(2)アゴの骨格的なズレが大変著しい場合

(3)第二大臼歯がまだ完全に萌出しきっていない

(1)について:乳歯から永久歯への交換の時期は個人差が大きく、例えば小学校4年生の女の子で全ての交換が終了し、第二大臼歯の萌出を残すのみという子もいれば、反対に乳歯が数本残っている中学生もいます。乳歯が数本残っている状態で永久歯となった前歯のみ矯正装置を装着し、そのデコボコだけを矯正しても、乳歯や萌出が完了していない永久歯には装置を装着できないため、こういう場合には全ての歯が永久歯になるのを待って装置を装着することになります。となると結果的には矯正装置を装着している期間が長引いてしまうので、このような場合には乳歯が残っている段階で早期治療を行うか、永久歯への交換が終わるまで経過観察を行い、その後本格治療をするのが良いでしょう。

(2)について:おおよそ女の子は15才前後、男の子は20才前後で身体的な成長、すなわち骨の成長が終了することが多いと考えられています。すなわち下顎骨の成長終了期も同様です。骨格的に下顎前突の傾向が強く、これを成長期が終了する前に矯正治療をしてしまうと、矯正治療で一旦反対咬合が改善されても、また反対咬合になってしまったり、被蓋(上の歯と下の歯の重なり)が安定しないことがおこったりします。早い段階で一旦反対咬合を改善しておくことはとても大事なことなのですが、成長期が終了するまでは経過観察を行い、身長やアゴの成長が終了したことを確認してから、外科的なあごの移動手術を併用する可能性をふまえ、改めて本格治療・後期治療のための診断を行うのが良いでしょう。私が治療を引き継いだケースでは、受け口を治すため一般歯科で矯正治療を開始し、6歳から17歳まで10年間矯正装置をつけていたんです、という男性がいました。

(3)について:第二大臼歯は親知らずの一つ手前の歯のことで、別名12才臼歯と呼んだりもします。これは12歳前後で萌出開始することが多いためそのように呼ばれるのですが、実際の萌出時期は個人差がとても大きいのです。第二大臼歯がまだ生え揃わず、それ以外の永久歯が全て生えている段階で矯正装置を装着することはよくあることです。このとき第二大臼歯の萌出方向に問題がなければいいのですが、萌出方向に問題があった場合には、親知らずを抜歯してから第二大臼歯にブラケットやバンドを接着して並べなければならず、結果的に矯正装置を装着している期間が長引いてしまいます。また、最近ではアゴが小さい方が多く、親知らずの萌出スペースが不足することはもちろんのこと、第二大臼歯の萌出スペースさえ足りないケースに遭遇することがあることを付け足しておきます。

矯正歯科治療に伴う一般的なリスクや副作用

  1. 治療開始当初は矯正装置による不快感、痛み等があるものの、数日から1~2週間で慣れることが多いです。
  2. 歯の動き方には個人差があるため、想定した治療期間より延長する可能性があります。
  3. 装置の使用状況、顎間ゴムの使用状況、定期的な通院等、矯正歯科治療には患者さんの努力・協力が必要不可欠です。それらが治療結果や治療期間に影響します。
  4. 治療中は、装置の装着により歯が磨きにくくなります。むし歯や歯周病のリスクが高まるため、丁寧なブラッシングや、定期的なメンテナンスが重要になります。また、歯が動くと隠れていたむし歯が見えるようになることもあります。
  5. 歯を動かすことで歯根が吸収して短くなることがあります。また、歯ぐきが痩せて下がることがあります。
  6. ごくまれに歯が骨と癒着し、歯が動かないことがあります。
  7. ごくまれに歯を動かすことで神経が障害を受け、壊死することがあります。
  8. 治療中に金属等のアレルギー症状が出ることがあります。
  9. 治療中に「顎関節で音が鳴る、顎が痛い、口が開けにくい」などの顎関節症状が出ることがあります。
  10. 様々な問題により、当初予定した治療計画を変更する可能性があります。
  11. 歯を削ることで歯の形を修正したり、噛み合わせの微調整を行う可能性があります。
  12. 矯正装置を誤飲する可能性があります。
  13. 装置を外す際、エナメル質に微小な亀裂が入る可能性や、被せ物(補綴物)の一部が破損する可能性があります。
  14. 装置を外した後、保定装置を指示通り使用しないと後戻りが生じる可能性が高くなります。
  15. 装置を外した後、治療により変化した噛み合わせに合わせて被せ物(補綴物)やむし歯の治療(修復物)などをやり直す可能性があります。
  16. 顎の成長発育により噛み合わせや歯並びが変化する可能性があります。
  17. 治療後に親知らずの萌出などの影響で凸凹が生じる可能性があります。また、加齢や歯周病等により歯を支えている骨が痩せると噛み合わせや歯並びが変化することがあります。その場合、再治療等が必要になる場合があります。
  18. 前歯を後退させた治療後に、ほうれい線が深くなったり、口唇周囲の皺が目立つようになる可能性があります。
  19. 矯正歯科治療は、一度始めると元の状態に戻すことは難しくなります。

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